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倫理委員会ニュース(4)

「科学データがマスコミに取り上げられる時」

土器屋由紀子(倫理委員会委員) 第42巻、第3号、N23, 2007.

 最近、関西テレビが制作した「発掘あるある大事典」の「納豆によるダイエット効果」の捏造問題に端を発して、科学テータを扱う上でのTV番組取材のあり方が問われている。ニュースとしてやや旧聞に属するが、筆者が共同研究者として片山葉子農工大教授を巻き込んでしまった「素敵な宇宙地球号: 富士山の風」に関する苦い経験を紹介し、注意を喚起したい。この番組は2004年10月3日~4日の深夜に放送された。富士山の大気観測が測候所の無人化に伴い中断されないように訴えたもので、主旨は伝えられたが、その過程でCOS生成菌チオバチルス・チオパルスを空飛ぶ古代の微生物として、またフリージングと直接的に結びつく説明や、毒性を強調し恐怖を煽るなどの多くの事実とは異なる内容が盛り込まれたため、研究者としてまた取材に協力した者として、強い当惑を覚える経験をした。

 この取材の発端は、気象庁からの紹介であり、ディレクターのN氏および取材班とは3ヶ月近くお付き合いした。3回に及ぶ富士山登山に同行し、慣れない自然科学の専門用語についてもN氏とアシスタントのM氏は熱心にノートを取りながら質問していた。片山教授も私も出来る限りの説明を行い、この方々には正しく理解してもらえていたと思う。サンプル採取や測定に協力した学生たちも含めてよい信頼関係が得られていた。決して「いい加減な取材」ではなかったのである。おそらく、放送されたものの10倍近い撮影が行われ十分準備があったと思われる。
しかし、放送用のストーリー作成の場面への参加は許されなかった。ロシアの研究機関の取材の挿入や説明用のCGは放送されるまで見ることが出来なかった。それは「著作権」と「取材の自由」の問題で、被取材者が介入できない領域であると伝えられていた。およそのストーリーは知らされていたが、実際の放送の内容とはかけ離れたものであった。以下は想像であるが、Nディレクターとスポンサーやプロデューサーの間の力関係で「面白くする」ことが優先されたのではないか。観測の継続性を訴えるだけでは弱いから、「恐怖の古代生物から地球を守る科学者たち」に脚色されてしまったのではないか。

 私達は放送後、Nディレクターに抗議し、ホームページ( http://fuji3776.net/info.html#04100901 )に問題点を指摘した。しかし、この程度のことでは訂正放送は行われなかった。研究結果などがマスコミにのることは、広く知ってもらえるという利点を持っている。特に、測候所における観測の継続を訴えるという意味ではこの時点で有難い取材と考えて協力したのであったが、「科学バラエティー番組」作成のメカニズムを知らなかったため、悔いを残すことになった。会員の皆様のお役に立てばと思い、反省を込めてご紹介する次第である。
 


 

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