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倫理委員会ニュース(5)

坂本 和彦(倫理委員会委員) 第43巻、第1号、N 20 , 2008.

 平成17年の師走に入ってすぐ、神奈川県より環境省に寄せられた情報等に基づいて調査した結果、島津製NOx計には環境大気常時監視マニュアル等に記載されているNO2の測定原理で規定されている「光学フィルター」が装着されていないことが分かった。

 光学フィルター無しの島津製NOx計において、干渉成分とて硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチルを模擬環境大気に添加して測定した場合、限られた実験結果からのものではあるが、NOx相対感度として、硫化水素 0.6、メチルメルカプタン 1.3 硫化メチル 2.3が得られ、メチルメルカプタンはNO値がかなり大きな正の干渉影響を与えることが分かった。換言すれば、この光学フィルターなしでは、上記の干渉成分による発光がカットされず、NOと見なされてしまうため、NO値が高く指示されるということである。そのため、NOxとNOの差で求められるNO2測定値は低い値となってしまう。したがって、SOxの主要発生源として考えられる三宅島の火山性ガス成分中に硫化水素が含まれていれば、それは干渉成分としてNO2測定値に影響を与えると推定される。

 上記の推定は、三宅島の噴火による影響が推定された実測データ「船橋市若松測定局(一般大気測定局)」では、平成13年8月14日17時にSO2濃度が329ppbまで上昇した時、NO濃度も43ppbまで上昇し、NO2濃度は0ppbまで減少していった」と符合するものである。しかし、干渉成分の組成と濃度が不明であり、どの程度の干渉影響であったかという定量的な議論はできないが、実測において干渉影響があったことは相当程度確かであろう。

 ここまでは、フィルター未装着に限って述べたが、これ以外にも不具合が推定された。フィルター未装着は当然大きな問題であるが、これ以外にも、この測定器には複数のトラブルがあったようだ。メーカー側におけるクレーム情報やトラブルに対する対応が一元化されていたのかなど、フィルター未装着以外にも「危機管理」に対する認識において、大きな問題があったのではないかと考えられる。装置に対する全般の知識と経験を持ったところに初期のクレームが伝えられ、それに対応すれば、もっとすばやく解決出来たのではないかと思われるからである。

 今回のこの不都合な経験から、このような測定機メーカーとしての責任を強く認識してもらうとともに、測定器を利用する側の私たちにとっても、ブラックボックス化しつつある各種測定器のトラブル等に関する経験や情報の共有化が、このような問題の早期解決に重要ではないかと考えられる。

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