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倫理委員会ニュース(9)

無題

嵐谷 奎一 (産業医科大学産業保健学部)  第44巻、第2号 N18, 2009.

 最近の論文作成数は着実に増加して、日本は米国に次いで2番目に多く、2003年は7万件を超し、10年前に比べ、1.5倍の増加となっている。米国は15万件をゆうに超す論文件数で、それは抜きんでている。この様に論文数が増加することにより論文の内容の質のみでなく、捏造が問題となってきている。
 そこで研究者の倫理に関して、最近の報告書等を検索し、研究の倫理について考察した。学術的研究は、真理を探究し、その研究成果を公表することにあり、社会の常識や規範、すなわち研究倫理に従って行わなければならない。研究論文や報告書は、正確、公正かつ客観的であり、その研究成果は再現性が担保されなければならないが、は評価内容が不幸にしてあやまちであることが判明したら、速やかにその修正をしてあやまちであることを公表する必要があり、これこそ研究倫理ではなかろうか。
 研究には著者の独創性が最も要求され、研究成果を盗用したとすれば、最も卑劣な行為であり、研究者としての社会的信頼を失墜するものである。
 科学論文の欺瞞は、多くは心理的要因に起因するものであり、研究者が学問の真理探究の原則を逸脱して偽りのデータをもとにした論文は、個人の性格に負うものだが、これはれっきとした背信行為なのである。

 今日の科学には出世第一主義的要素が大きく、その成果は社会的に高く評価されることと、場合により報奨が生ずることもある。研究結果の偽装、捏造、盗用など、かつては研究者が思いもつかないことが、最近の研究のあり方の根本概念をたやすく放棄してきている。
 科学に於ける欺瞞は、偽装、捏造という研究を行う上でも最も悪質、非道な行為であるが、研究者の無意識による自己欺瞞が存在することがある。研究結果の捏造、研究の結論に合わせたデータだけを使用することは、しばしば見られることであり、これはデータの捏造にはその度合いに差が存在するが、故意によるものかどうかは判断できず、研究者自らの倫理観によるものである。
 研究者にとって真理の探究こそが、研究成果を純粋なものとするが、最近の成果主義は研究者個人の問題のみでは片付けられなく、その社会にあることも事実である。捏造、欺瞞の防止手段は審査制度の強化と追試が最も効果のあるものであろう。

 研究の捏造問題で最近最も驚かされたのは、韓国のES細胞研究に関わる捏造疑惑問題ではなかろうか。これにはいくつかの問題点が指摘されている。
 しかし、この場合、捏造の指摘は査読担当者でなく、論文共著者であり、なぜこの様なことが生じたのか、査読者には論文の内容の精査に限界があることを示し、また、論文共著者間の論文内容検討での曖昧さと真理追究への欺瞞さと倫理感の欠如に起因するものである。
 研究での成果・功績を急ぐことによる拙速、不幸なことに世論の過剰なる期待と支援などが複合的に重なったものであろう。この問題で、論文そのものの捏造だけでなく、卵子の提供過程での倫理違反と欺瞞工作が疑問視されている。
 しかし、研究者は先を競って独創性のある、質の高い研究に打ち込む余り、他の研究者の研究を追試する様なことは少なく、また論文の審査に当たっても、その項目は実験方法、結論の妥当性、他の論文との違い、適切な引用論文など多岐にわたっているが、研究成果の独創性、真実性の精査は難しいのが現実である。

 昨今の研究者は社会が余りにも業績を重んじるあまり研究室での実験をおろそかにし、いつの間にか論文作成と研究費の申請や成果報告に追われる者が多い。これは研究成果が余りにも短期間であるが、しかし長期間の研究でしか明らかにならないものが実は多数である。
 研究成果は、研究者の真理探究という純粋な目標であり、倫理的に優れた行為でなくてはならないが、社会的評価を得る願望の方が高い評価として認められる風潮があるように思われる。従って、研究はその内容が充分に検討され、正直さと信頼性を兼ね備えていなくてはならない。栄光と名誉を求める風潮を自重しなければ、科学が持つ真理の探究が薄れ、実験の欺瞞の機会を造り出す。他の研究者が研究成果の実験的な追試を行うことをしなければ、その成果のり妥当性をどうして認めるのであろうか。

 最後に、どうして実験が捏造されるのであろうか。科学的な未熟さゆえの誤りはあり得るのであろうが、実験データの捏造、盗用など、研究者自らの意図的な行為は研究者として真に慎むべきであり、真理の探究を目的とする研究者にとってこの捏造に向き合うのは、研究者の倫理観であり、各々の学会での倫理綱領の確立と個々の研究者への倫理観の啓蒙活動ではないかと考えられる。

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